S-Works Tarmac SL8

Athosという常識外の軽量バイクで得た発想
※Tarmac SL8の設計思想に、Athosというレーシングバイクの重量制限規定以下で作られた軽量のロードバイクがありここで得た軽量化するための強度や空力の妥協点が反映されています。妥協点というと語弊がありますが、軽量化のために必要ないと考えた要素は排除している事が、円形を基調としたフレームや、細くなったリアフレーム、華奢な作りのボトムブラケットなど随所に現れていてその副産物が、レーシングバイクという速さを追求しながら、快適性の向上(レーシングバイクにしては)に繋がっていると考えられます。
私自身がこのS-WorksのAthosも所有しており、東京で家内と軽く出かけたり、夜時間のある時にトレーニングとして乗っています。Athosの利点はなんと言っても軽さで、あまり速度を出さない乗り方や慣性を使わないでもスイスイと坂を登ってしまうような軽快さがあります。余談ですが東京の街中を家内と軽く走り、駐輪場に止めて歩く事が多いのでAthosはビンディングペダルではなくMTB用の滑らないフラットペダルで乗っています。普段の移動でも使える事や駐輪場の二段ラックに上げるのも軽さが生きています。
なかなか撮影に行く時間も取れないのですがAthosについては機会があれば紹介したいと考えています。
Athosを持ち出すとTarmacの空力が良くわかります。Athosは軽量化を追求したロードバイクでレース規定を満たさない仕様(軽過ぎて反則になります)で、ロードバイクのメリットを競技ではない方が楽しめるように作られたロードバイクでその軽さは乗るとどんな方でも体感出来ると思います。この軽さのメリットは、坂道を登る時に生きます。坂道以外では発進時の軽さがあり、時速30km位まではTarmacより早いのではないかと感じます。そこからさらに速度を上げて40kmを超えてくると速度の伸びと、速度を維持するのが難しい事がわかります。Tarmacは発進はAthosの方が早いと感じますが30kmを超えたあたりからの速度の伸びが違います。40kmを超えてもまだ加速しますし、速度の維持が楽(と言っても結構真剣に漕いでいます。)です。これが空力の恩恵でそもそもホイールのリムハイトや、ハンドルバーの形状、フレームの空力処理などが異なりますので当たり前といえば当たり前です。
空力性能や軽量化は数値化しやすいがそこが全てではないという開発思想
ただ、SL8のレーシングバイクとして考えられた空力処理が、他のメーカーのレーシングバイクと比べた際、優れているのかという話になると、さらに優れたモデルがあるので、この面が、最新のSL8の評価を微妙にしているのではないかと感じるところです。
この空力性能以外の軽量化や、乗りやすさや疲れなさのバランスを取ったモデルが最新のSL8となります。当代一の空力性能といった数値でアピール出来る要素ではないメリットとバランスの良さがなかなか説明しにくい事が最新のSL8の評価を難しくしているのではないかと感じるところです。
Specializedという会社の凄さに革新的なバイクを生み出して来た歴史があり、Vengeという2世代前の空力を突き詰めたロードバイクがありその空力の圧倒的な性能とそのバイクで活躍したサガンの影響力がSpecializedが出すバイクのイメージを作り上げてしまったので、最新のTarmacに対する期待と、出てきたモデルのコンセプトが異なっていたことも評価を難しくしている原因ではと感じています。前記したAthosのコンセプトや軽さの凄さも話題になっていますが非常に面白いロードバイクを生み出すのがSpecializedという会社でありそのことでファンを獲得して来た会社でもあります。
ロードバイクも趣味性の高い道具であるのでどうしても評価の対象に価格やスペックがあります。
道具を使う遊びでもあるので当然道具に関わる話も楽しみの一つであります。ネットのような言葉がメインの交流の場においてこの道具の話が実際に走る事よりも重要視されてしまいがちで、その事が、肯定派にとっても否定派にとっても最重要のような錯覚に陥りやすいのかなと感じています。
実際にスペック云々より乗り味や乗って感じる事の方が重要なのではという事やロードバイクのようなスポーツにおいては道具もですがそれを選択する個々の環境や能力の方が重要で(他人との優劣ではなく個々のスキルの向上といった意味)、同じクラスのロードバイクを乗り換えるよりトレーニング方法を変えたり、ポジションを変える方が実は効果が大きいという前提を踏まえてその先のスキルの向上をするための選択といった視点の情報があまりない事や、逆に大好きなメーカーの最新のフラッグシップだからスペック云々は抜きで欲しいという愛好家的な視点での選択もあって然るべきかなと感じます。(そこにスペックなどの理由もあると思います。)
その上でスペックの高いロードバイクを選ぶ事で、少しだけ楽に走れたり、少しだけ早く走れたりするという事が機材を選ぶ楽しみの本質でそこが抜けた情報の補完をできたらというのが今回の記事の内容でもあります。
ロードバイクを気軽に楽しむ
ロードバイクはある程度の機材を所有すると乗る時に流儀のようなものに沿わなければいけない様なイメージがあり、その事が、乗った事のない方の敷居をあげてしまっているのではないかなと感じています。
ちょっと趣味性の高い移動手段で、身体を使うから健康に良さそうというくらいの意識で楽しまれると良いのではないかなと考えています。どうしてもロードバイクに乗るというと、ビブを履いてサイクルウエアでビンディングシューズを履かなければいけないという不文律のようなものがあり、そのことは正解ではありますが、ロードバイクのメリットに長い距離をそれなりの移動速度で走る事が出来ます。
この事が、車ほどの移動距離はないけど、徒歩ではいけないところに移動する。車では感じることのない途中の景色や街並みを感じるという非日常を味わう事ができます。また、途中駐輪場に預け、歩いて街並みを楽しむといった楽しみもありますので必ずしもサイクルウエアやビンディングシューズが必須ではありません。普段着にスニーカーで乗っても楽しめます。
休日家内と都内の散策に自転車で出かけます。家内が自転車が趣味というほどではないのですが、半日で色々なところを自転車で移動するのは楽しいと言っており、気候の良いシーズンは積極的に家内と自転車で出かけます。
そこまでスピードは出さないのですが、30kmくらいの距離は走ります。ロードバイクを真剣に乗るという乗り方ではないのですが、そのような使い方でも自転車は楽しめます。家内はSpecializedの電動でComoというモデルに乗っています。このような休日の使い方だとウエアは汗を書いても良いパタゴニアのウエアを着て出かけます。
パタゴニアもスポーツウエアで相当カジュアルですが、流石にサイクルウエアでは行きにくいホテルのカフェなどでも違和感もなくヘルメットを持って簡易リュックで普通にランチも楽しめます。極端な例ですが、家内と銀座に自転車で遊びに行き、ヘルメットを腰にぶら下げて、ブルネロクチネリ銀座店に行ったのですが、お店から嫌がられる事もなくスタッフの方の話のたねになるような感じでスタッフの方も楽しまれていました。
そんな楽しみ方も出来ますので、健康を考えてロードバイクに乗ってみたいという方はあまり難しい事を考えず普段の移動の延長くらいの意識で楽しまれると入りやすいと思います。

後ろから見ると、ハンドルのバーの薄さやシートステーの薄さ、円形な形状を組み合わせていて空力面を詰めていますが別メーカーのロードバイクはこの空力面を前方円や直線などでもっと煮詰めています。この事がTarmac SL8の評価を下げてしまっているのは残念ですが、スペックや見た目以上に乗りやすく、速さもある真っ当なレーシングバイクであります。
Tarmac SL7からの乗り換えの必要はあるか
私自身は乗り換えた事が良かったと考えていますが、人に勧める場合、少し悩むといったのが本音です。
ロードバイクも道具を使う遊びで、道具にこだわるのも楽しみの一つであります。ただ、こだわると価格がネックになってきてしまいます。価格はなんとかなるという方で、最新の高性能なロードバイクが欲しいとなった時に他のメーカーも候補に上がります。
その中であえてS-Works Tarmac SL8を選ぶとしたらどういう方に向いているのか?となった時に非常に極端ですが
走破能力はあってもなくても、良い道具を選びたい方(これは値段やブランド性だけでなく良い道具と感じる機械精度や感触を感じ取れる感覚での意味合い)や、ロードバイク歴はそこまで長くないが良いバイクに乗りたい方でマーケティング的なスペックより乗りやすさを重視する方。せっかく高価なフラッグシップモデルを購入するので長く愛用したい方。こういう方にはおすすめ出来ます。(私がこれだと思います。)乗り心地の良さや足あたりの良さを持ちながら負荷をかけた時のレスポンスの良さ、ペダルを漕ぐ事に感じる精度の高さからくる気持ち良さや、その事を誰でも感じ取れる寛容さがSL8の最大の利点ではないかと感じています。この濃度が一番高いのがS-WORKSのモデルになります。
逆に、ある程度、ロードバイクに乗り込んでいて、違いもわかるし、スペックを活かしきれているといった方だと、スペックの面白さは他のメーカーのロードバイクの方があるので、そういう選択種の方が満足度は高いのではないかと思います。
競技などをしているハイレベルなユーザーはとなると、私自身がそうではないのですが、距離や負荷が高くなるほど恩恵を受ける部分もあるので、200kmクラスの競技に出ている様なハイレベルなアマチュアの方とかは実は恩恵を受けるのではないかと思います。ただこのレベルの方は、吊るしでは乗らず、好みのパーツなどもあるので、フレームのみの購入となるのですが、身体の負担が同クラスのロードで一番少ない事が恩恵となる方であれば満足度は高いのではないかと思います。
ロードバイクも裾野が広く、ショップの方も言っていたのですが、走破能力より、好きで乗る方が多く、結構年配の方が購入されていると言うのもなんとなく納得出来る話です。この年配の方というのも、長いキャリアを持ち、ものに対する見識があり、その上で選んでいるので、スペックなどの話題性だけにとらわれず、自身が求めるものという選び方で購入されているのも納得の話です。
そういった面では非常に優れたロードバイクであります。
高性能なロードバイクはプロ用の道具でもあり、性能を活かすには相応の身体能力や狭いスイートスポットを使いこなすようなところがありますが、Tarmac SL8はこのスイートスポットが寛容に感じる事が一番のセールスポイントではないかと感じています。
私のような、競技者でもなく、ベテランでもなくそろそろリタイア世代に手が届く、単なる好きで乗っているユーザーの意見ですが、同じ様な境遇で予算が許すなら選択種の一つとしておすすめです。趣味性の高いものなので、本来レースや競技という性能が価格という側面が注目されがちですが、速さという性能以外での趣向も反映されるものでもあるのであまり情報に左右されず本当に好きなものを選択されるのが良いと思います。
S-Worksとは関係ないのですが、コルナゴやピナレロ、サーベロなど老舗から、トレックやキャニオンなど魅力的なロードバイクを販売しているメーカーも多数あり、歴史やレースでの勝利、革新性や憧れの選手が使っているなど所有したいと思わせる魅力がある商品ですので、ご自身の趣向に応じたものを選ぶのが満足度は高いと思います。
ディテール
フレーム | S-Works Tarmac SL8 FACT 12r Carbon, Rider First Engineered™, Win Tunnel Engineered, Clean Routing, Threaded BB, 12x142mm thru-axle, flat-mount disc | フォーク | S-Works FACT 12r Carbon, 12x100mm thru-axle, flat-mount disc |
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ハンドルバー | Roval Rapide Cockpit, Integrated Bar/Stem | ステム | Roval Rapide Cockpit, Integrated Bar/Stem |
バーテープ | Supacaz Super Sticky Kush | サドル | Body Geometry S-Works Power, carbon fiber rails, carbon fiber base |
シートポスト | S-Works Tarmac SL8 Carbon seat post, FACT Carbon, 15mm offset | フロントブレーキ | Shimano Dura-Ace R9270, hydraulic disc |
リアブレーキ | Shimano Dura-Ace R9270, hydraulic disc | シートクランプ | Tarmac integrated wedge |
シフトレバー | Shimano Dura-Ace R9270, hydraulic disc | フロントディレーラー | Shimano Dura-Ace R9250, braze-on |
リアディレーラー | Shimano Dura-Ace R9250, 12-speed | カセットスプロケット | Shimano Dura-Ace, 12-speed, 11-30t |
チェーン | Shimano Dura-Ace, 12-speed | クランクセット | Shimano Dura-Ace R9200, HollowTech II, 12-speed with 4iiii Precision Pro dual-sided powermeter |
チェーンリング | 52/36T | ボトムブラケット | Shimano Dura-Ace, BB-R9200 |
フロントホイール | Roval Rapide CLX II, Tubeless, 21mm internal width carbon rim, 51mm depth, Win Tunnel Engineered, Roval AFD hub, 18h, DT Swiss Aerolite spokes | リアホイール | Roval Rapide CLX II, Tubeless, 21mm internal width carbon rim, 60mm depth, Win Tunnel Engineered, Roval AFD hub, 24h, DT Swiss Aerolite spokes |
フロントタイヤ | S-Works Turbo Rapidair 2BR, 700x26mm | リアタイヤ | S-Works Turbo Rapidair 2BR, 700x26mm |
チューブ | Turbo Ultralight, Presta valve |
S-WORKS TARMAC SL8 – SHIMANO DURA-ACE DI2 | 44 | 49 | 52 | 54 | 56 | 58 |
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Stack to Stem (mm) | 509 | 522 | 535 | 552 | 573 | 599 |
Reach to Stem (mm) | 363 | 372 | 377 | 381 | 393 | 400 |
Frame Stack (mm) | 501 | 514 | 527 | 544 | 565 | 591 |
Frame Reach (mm) | 366 | 375 | 380 | 384 | 395 | 402 |
Head Tube Length (mm) | 99 | 109 | 120 | 137 | 157 | 184 |
Head Tube Angle (degrees) | 70.5 | 71.75 | 72.5 | 73 | 73.5 | 73.5 |
BB Height (mm) | 266 | 266 | 266 | 268 | 268 | 268 |
BB Drop (mm) | 74 | 74 | 74 | 72 | 72 | 72 |
Trail (mm) | 71 | 63 | 58 | 58 | 55 | 55 |
Fork Length, Full (mm) | 370 | 370 | 370 | 370 | 370 | 370 |
Fork Rake/Offset (mm) | 47 | 47 | 47 | 44 | 44 | 44 |
Front Center (mm) | 572 | 574 | 577 | 579 | 592 | 606 |
Chain Stay Length (mm) | 410 | 410 | 410 | 410 | 410 | 410 |
Wheelbase (mm) | 970 | 973 | 975 | 978 | 991 | 1006 |
Top Tube Length, Horizontal (mm) | 496 | 509 | 531 | 541 | 563 | 577 |
Bike Standover Height (mm) | 723 | 735 | 746 | 768 | 786 | 808 |
Seat Tube Length (mm) | 433 | 445 | 456 | 473 | 494 | 515 |
Seat Tube Angle (degrees) | 75.5 | 75.5 | 74 | 74 | 73.5 | 73.5 |
Crank Length (mm) | 165 | 165 | 170 | 172.5 | 172.5 | 175 |
Handlebar Width (mm) | 380 | 380 | 400 | 420 | 420 | 440 |
Stem Length (mm) | 75 | 75 | 90 | 100 | 100 | 110 |
Saddle Width (mm) | 155 | 155 | 155 | 143 | 143 | 143 |
Seatpost Length (mm) | 300 | 300 | 300 | 380 | 380 | 380 |
おわりに
発売当時に、世間の期待も大きく良くも悪くも話題になり、本来の価値の見極めが難しかった事から、実際に購入し所有した感想を述べる事で、購入を検討したり、興味がある方の参考になればと考えての記事となっています。
言葉で自転車の性能や乗った感覚を表現することは難しく、無駄に長い文章になってしまったかなという反省はありますがロードバイクに限らず、昨今のトレンドで分かりやすいキーワードが商品販売のキモのような状況で、商品の価値が分かりやすいキーワードに合致しないと評価が難しくなる典型のような商品でした。
この状況が過去に所有したポルシェのGT3RSの状況に近く、下馬評よりも所有者の満足度が高い商品であり、突出したわかりやすい一つの価値でなく、価値のバランスをうまく取り実際に乗ることで商品が持つその複数の良さを最大限に体感出来る寛容さを持つ高性能なロードバイクというのが感想となります。
高性能なロードバイクで、実際にプロのレースに使われていますので、性能はあって当たり前の商品ですが、プロがレースで使うイメージであるスイートスポットの狭さではなくプロほどの能力がなくても乗りやすい事や、高性能を感覚的に気持ち良く感じ取れる商品です。
私はS-WORKSのTarmac SL8を購入しましたが、SpecializedのTarmac SL8も同様の傾向を持っています。その差は軽さと機械精度の高さになります。この差は小さくもあり大きくもありますので、予算と好みで選べば良いと思います。
元々はトライアスロンに挑戦するという話から、購入の話が進んだので、状況が許せば挑戦したいと考えています。
Shop
S-WORKS SL8はSpecialized自由が丘店さんで購入しています。
スタッフの方は、競技者であり、富士のレースやツールド沖縄などで上位に入るようなメンバーですが、どのような方でも気軽に相談に乗ってくれます。競技でバイクを使っているスタッフなので、レースやスポーツ的な仕立てはお手のもので、純正パーツ以外のパーツも用途に応じて提案してくれます。定期的なメンテナンスもしっかり対応してくれるので、安心してロードバイクを楽しむ事ができます。初心者の方には、週末のライドイベントがあり、参加されるとスキルも上がり、参加者も気さくな方が多いので楽しめると思います。時計のコルリオーネさん同様、店長さんが、自転車競技者でありながら、自動車レースも体験しているので、自転車だけでなく車の話などにも花が咲き、ついつい長居してしまう事もあります。スペシャライズドという競技に使うロードやMTBを扱っているので当然お客様も競技をされる方も多いのですが、場所柄、年配の素敵な方も多く、趣味人の方で、ご夫妻でロードバイクを楽しんでみたいと考えている方などにもおすすめです。