選んだ経緯
Artigiano ciao
Artigiano ciaoは、イタリア各地のサルトリアの古着を取り揃えています。巨匠や名工とも言われる方が仕立てた真の名品であるジャケットやスーツが並んでおり、その中から自分に合いそうなものを探します。
その中でも特にナポリで仕立てたスーツやジャケットの取り扱いが多い事が特徴です。ナポリ仕立てといっても、サルトリア毎にスタイルが異なり、実際に身につけてみるとその違いが良くわかります。
ビスポークで仕立てた古着の特性上、既製品とは異なり、前オーナーの体型に合わせて仕立てられています。その事から自身の身体に合っているものを探す必要があります。
身体に合った寸法
Artigiano ciaoは、公式Webサイト上で、扱うジャケットやスーツに、ガイドとなる寸法を提示してくれています。
ジャケットは着丈や身幅、最小身幅、肩幅、袖丈、袖ボタンの開始位置と袖内折り返し生地の余白といった、詳細な寸法が提示されています。
トラウザーズは、ウエスト、ウエストの余白、渡り幅、膝幅、裾幅、股上、股下、裾の状態はほとんどはダブルなのでダブルの幅と出しが可能な余白といった、詳細な寸法が提示されています。
ガイドとなる寸法に私の身体に合うサイズを照らし合わせ、私が着る事ができそうなものをWebサイトに出ているスーツやジャケットからある程度選択します。
リレーション
私が選択したスーツやジャケットの中から、私に合いそうなものについてオーナーに相談します。ウエストの詰めなどサイズ直しを行なっても元のシルエットが崩れないものを選んでもらいます。
お店に伺い、オーナーがセレクトした、私の体型に合いそうな数点のスーツを見せていただき試着します。
Artigiano ciaoが素晴らしいのは、各サルトリアのスタイルを熟知しています。似たような色や形のスーツでも、比べて見るとサルトリア毎のハウススタイルの違いが良くわかります。まずジャケットを羽織ってみてその違いについてオーナーがその違いとそれぞれの利点をレクチャーしてくれます。
その中から、私の体型に合いそうなスーツを選んでいきます。購入したFormosaのカシミアジャケットが私の体型に合っていたことから、サイズ感が近く私の体型に合うFormosaのチャコールグレーのスーツを勧められます。
ナポリ仕立てからの選択
他にも、アントニオパニコ(明るめのネイビーでパニコらしい質量のあるシャークスキンの生地)やKiton(なんとSuper180sのビスポークです)などのスーツも候補に上がります。
古着の特性上、身体に合っている事が必須条件でもあります。パニコもKitonも優れたスーツですが試着した結果、私には身幅が大きく、私が着用するなら、身幅を詰める必要があります。
アントニオパニコもKitonも選んだFormosaも全てナポリで仕立てたスーツになります。実際に試着をしてみると全身のシルエットが、全く異なることがわかります。
そのような選択から私の身体にほぼジャストフィットであったFormosaのチャコールグレーのスーツに決めています。
サルトリア毎のハウススタイルといったスーツの型に対する考え方や哲学が、着比べてみることで良くわかります。ただ、ビスポークにより、前オーナーの身体に合わせているので、ハウススタイルの理解に前オーナーの体型や目的というバイアスを考える必要があります。
前オーナーの体型に合わせて仕立てられているので、私の身体に合うように直しを入れます。幸い、前オーナーの体型が私の体型に近く、私より少し背が高い方なので、ジャケットの直しは、袖丈を1cm程度、トラウザーズのウエストを4cm程度、股下を2cm程度詰める形で私の体型に合わせています。
このサイズ直しは、オーナーとスタイリングについて話ながら決めていきますが、クラシコイタリアのスタイルを熟知しセンス抜群であるオーナーにお任せで決めています。
私が選んだスーツは、Formosaらしい、英国由来の構築的なフォルムを残しながら、番手が高く、柔らかく軽い上質な生地を使い、仕立て技術の高さから、非常に着心地の良いスーツです。

ハンガーにかけると、着た時に出ていたコンケープドショルダーがわからなくなります。袖上の肩周りの皺で調整していることがわかります。

着た時と、ハンガーにかけた時の見え方が異なります。着心地の良さと着た時のシルエットが一番綺麗になるよう立体的に仕立てられています。カシミアジャケットほど目立ちませんが、襟のロールが綺麗に構築されています。

オーソドックスなツープリーツのトラウザーズですが、履き心地の良さとお尻周りのシルエットが綺麗になるよう直線的にカットされています。

丁寧に仕立てられたボタンフライです。見えないところにも手を抜かない丁寧な仕立てと、縫製技術の高さが良くわかります。

クラシコイタリア
今回紹介するFormosaのチャコールグレーのスーツは、2005年に仕立てたもので、名工であるFormosa創業者のMario Formosa氏が仕立てたスーツになります。
仕立ての技巧的な素晴らしさ、依頼したオーナーの見識が、見事に表現された素晴らしいスーツになります。たまたま私の身体に合っていたことから、現在私がオーナーとなっているスーツになります。
英国スーツをルーツに構築的な仕立てを行いながら、適度な余白を取り、全体のシルエットをすっきりと見せるといったFormosaのハウススタイルの特徴がしっかり表現されています。
このフォルムに、一見地味なチャコールグレーの上質な生地を選んだ事で、クラシコイタリアの真髄とも言える、控えめであるアンダーステートメントなスタイルが出来上がっています。
私がこのスーツを身につけた写真を見て浮かぶ職業のイメージが、あくまで映画の世界ですが、要人の護衛をするシークレットサービスに見える事が、Formosaの仕立てと、依頼したオーナーのセンスの良さを物語っています。
その理由を考えると、クラシコイタリア、ナポリのサルトでビスポークしたスーツの本質が見えてきます。
アンダーステートメント
Formosaのチャコールグレーのスーツを着用したら、要人の護衛を行うシークレットサービスに見えるということは、究極のアンダーステートメントと考えられます。
目立たずに、要人を護衛する役目であり、自身の存在を消して任務を全うするシークレットサービスの役目を考えると、行動を表すアンダーステートメントという言葉より、物理的なインコンスピキュアスの方がしっくりきます。
控えめで一歩引いた謙虚さを表すアンダーステートメントという言葉ですが、存在そのものを消してしまうシークレットサービスに見えるFormosaのスーツは、アンダーステートメントに物理的な表現であるインコンスピキュアスな要素も含んでいます。
サルトリアにビスポークで仕立ててもらう意義に、身体に合っていることや、どのようなシーンでどのように着たいかという要望に対し、サルトリアが全力で応えるというリレーションがあります。
サルトリアごとに得意なスタイルや、基本的な形があります。Formosaは英国的なテイストを持ちながら、身体のラインを極度に出さず、余裕を持たせ、全体的にすっきりと見えるモダンなシルエットを得意としています。
このモダンですっきりしたシルエットを活かしながら、非常に地味なチャコールグレーの上質な生地を選んで仕立てたスーツが、控えめなアンダーステートメントを超えてインコンスピキュアスとも感じるイメージを作り出しています。
インコンスピキュアスという表現を用いていますが、地味なだけに見えないフォルムとスタイルを持つスーツを仕立てたことにFormosaの仕立て技術と前オーナーのセンスの良さが現れています。
力強さと知性の表現
シークレットサービスに見えるもう一つの理由が、Formosaのスーツを着ることで男性的な逞しさと強さも表現されています。要人の護衛を行う任務なので、鍛えられた身体を持ち、武道に長け、様々な状況に臨機応変に対応できる明晰な頭脳も持ち合わせているシークレットサービスに見えるということは、内面を含め男性の魅力を最大限に表現していると言えます。
私は、鍛えられた身体でも無く、武道に長けているわけでも頭脳明晰でもありません。そのような私が身につけてシークレットサービスに見えるということは、Formosaのスーツを着ると、究極の控えめさと、男性的な強さと、知性を表現できるということでもあります。
このことも、Formosaの哲学と、依頼者のセンスの良さを感じた理由になります。

イタリア的な洒落者(イタリアの伊達男、いわゆる「Uomo Elegante」)の定義は、単にトレンドを追うことではなく、「スプレッツァトゥーラ(Sprezzatura:わざとらしさを感じさせない余裕や軽妙さ)」を体現する人物とされています。非常に控えめに見えながら、男性的な魅力を表現したスーツをオーダーで作る前オーナーは、スプレッツァトゥーラを体現していた方だったという事がわかります。このようなスーツを継承したので、私も前オーナー同様、スプレッツァトゥーラを体現出来るよう精進したいと考えています。
着心地の良さの理由
今回紹介するFormosaのスーツも、優れたスタイリングながら、全ての動きや所作に全くのストレスを感じない着心地の良さがあります。その理由について考えてみます。
立体的な仕立て
ナポリのスーツの特徴に、ストレスのない着心地の良さという表現が良く用いられています。また仕立ての技法に立体的な仕立てにより、スタイルの良さと、着心地の良さという表現が用いられています。
実際に着用すると、確かに、優れたスタイリングと、着心地の良さを感じ、良く言われる、スタイルと着心地の両立を高い技術で実現しているという表現を実感できます。
この理由が、自身で着用し写真に撮った姿を見ることで理解出来ます。ナポリの仕立てのスタイルを構成している構造的な本質に、正面と背後のシルエット、横からの厚みという2方向からの視点を考えると理解しやすいです。
正面や背後から見たシルエットは、絞るところと出すところをしっかり構築します。ただ、これだけでは着心地が窮屈になったり余計な余白が出てシルエットが崩れてしまいます。
必要な箇所に余白を設け、この余白と逆に引き締める箇所を立体的に構成しています。この塩梅が絶妙であり、どのような姿勢をとっても、窮屈さを感じず、シルエットが崩れないナポリのスーツの特徴になっています。この余白を身体の厚み(奥行き)に上手く逃がしているのがナポリのスーツの特徴になります。
写真ではわかりにくいですが、特徴的なのは、肩から袖のラインが、正面と横からでは太さが異なります。この横から見た時にわかる奥行きに余白を上手く逃す事で、どのような姿勢でも肩や袖にストレスを感じない着心地になっています。

