Brunello Cucinelli シアリング バイカージャケット
我々世代ではムートンと呼び、最近ではシアリングと言われる、羊革の毛を刈り込みインナーとして使い、皮革面を表にした軽く柔らかく暖かいレザーアイテムになります。このシアリングをBrunello Cucinelliのセンスでダブルフェイスのライダースジャケット風にまとめた物が今回紹介するシアリングバイカージャケットになります。
ダブルフェイスのライダージャケットというとショットやルイスレザーズ、BucoのJ-24などかなりハードなアイテムになり、最近ではエディスリマンがYSLで手がけたものなどモード的な要素もあります。バイカーやロック的なイメージから、非常にハードで男臭いアイテムなので若いロックバンドなどの方が着ると様になりますが、歳を経て着るのはなかなか難しいアイテムになります。
ロック的と言えばガンズアンドローゼズのスラッシュがダブルフェースのライダースをステージ衣装にしているので目にしたことがあるのではないでしょうか。スラッシュは還暦を超えていますが、ロックスターなので非常にカッコ良く着ています。(スラッシュはルイスレザーズやショットのものを愛用しているようです)
ブルネロクチネリのシアリングバイカージャケットは、形はライダースジャケットですが、スーツの上やジャケット代わりに着れるようなコンセプトで作られていますので、牛革やホースハイドのハードなダブルフェースのライダースとは印象が異なり、歳を経た方が着ても上品にさりげなく男臭さというより男性的といった形で着ることが出来ます。シアリングの特性上、非常に軽く柔らかく着心地も良いのである程度年齢が高くても着こなしやすい優れたアイテムです。


はじめに
A-2の記事で、ある程度の年齢になるとオリジナルのA-2を着こなすには少し工夫が必要といった内容を書いていますが、今回紹介するブルネロクチネリのシアリングバイカージャケットは、品質の高さを含め、こなれた風合いからどのような方がどのような形で着ても形になる優れたアイテムです。
商品単体で見ると癖が強く着こなしが難しそうに見えますが、デニムやチノをはじめクリースの入ったパンツに合わせてもまとまりが良く、真冬でも軽く暖かくインナーは薄手のニット一枚で十分なので着膨れもせずスタイリッシュかつ上品にまとめてくれる冬場に重宝する優れたアウターです。
オーダー会
3年ほど前、ブルネロクチネリの銀座店に伺った際に、翌シーズンにリリースする女性用のカシミアのポンチョが良いので奥様にいかがですかとお誘いを受けます。このポンチョは一般販売はなくオーダー会のみの販売になるので是非とのお誘いに、オーダー会には行ったことがなかったので伺う約束をします。ブルネロクチネリのオーダー会は年2回あり私が行ったのはFW(秋冬もの)のオーダー会になります。
お誘いは1月の終わりで、オーダー会は3月の半すぎに開催されます。場所は番町のブルネロクチネリのヘッドオフィスのプレスルームになります。食事なども案内され、翌FWシーズンのアイテムが整然と展示されています。日程も調整されていて、私達夫婦を含め、3組のご夫妻が、ゆったりと展示されている服を見ています。ブルネロクチネリの特徴に年齢層が高く、同席されたご夫妻も私達より少し上の世代の方でした。
家内の冬物がメインで伺ったオーダー会で、銀座店のスタッフさんと共に、家内の服を選んでくれたのが、メディアにも良く登場するMr.ブルネロクチネリと呼ばれる、引野氏です。家内はそのシーズンの目玉の一つであったブルーが入ったミディアムグレーのカシミアピーコートに目が行きます。この時引野氏が、ピーコートと共に同色のカシミアポンチョを家内に持ってきて進めてくれます。
襟元が少し開くのでカシミアマフラーも一緒に持って来てくれたのですが、ここが引野氏の真骨頂で、ボリュームがある茶色のざっくりとしたアルパカのマフラーを持ってきて合わせてくれます。さりげないマローネアズーロの組み合わせで、ポンチョとざっくりと大きめなマフラーの質感の違いは絶妙な組み合わせで、リラックスしたスタイリングながら非常に上質で家内もその組み合わせの妙に惹かれ、引野氏がセレクトしてくれた組み合わせに即決します。
Mr.ブルネロクチネリのセレクト
家内のお目当てのものが決まり、引野氏が私のものも何かと色々物色してくれて、持て来てくれたのが、今回記事にしている、シアーリングバイカージャケットになります。ブルネロクチネリと言えば、カシミアが有名で、世界トップレベルのカシミアを贅沢に使ったアイテムを勧めるのではと考えていた私からすると意外なセレクトです。
私の先入観の中にブルネロクチネリはカシミアというのがあり、カシミアのコートが良いかなと考えていて、ちょっと前まで展開していた裏表カシミア使用しリバーシブルに仕立てたルダンゴト(バルマカンスタイルで非常に贅沢なコートです)をオーダーしようと考えていたのですがこのルダンゴトは辞めてしまったとの事でした。非常に優れたコートですが、コストがかかりすぎなのと、リバーシブルで裏地にキュプラなどを使用出来ない為、着る人によっては通常のコートと着心地が異なるなどが理由にあったようです。
(ブルネロクチネリのルダンゴトの解釈は乗馬スタイルのコートを意味しておりジャケットのカヴァッロと同様の解釈)
このカシミアのリバーシブルで仕立てたバルマカンコートが復刻したら是非欲しいと考えているアイテムです。
私が意外と感じた引野氏のセレクトは、恐らくですが当日私は501XXとブルネロクチネリのフィールドジャケットを着ていたので、古着やアメカジが好きだと考え、趣向が近いライダースを選んだのではないかと感じます。
実は、最初に、シアーリングバイカージャケットを見た印象はあまり良くなく、私自身がレザーアイテムを身につける機会はあまりないのでどうかなと考えます。引野氏に、今日の雰囲気にお似合いになるので一度袖を通してみてくださいと言われ、実際に着てみて鏡の前に立ってみます。鏡に映る姿はハンガーにかかった印象と異なる印象を受けます。
パッと見た感じはハードな革ジャンのイメージですが、実際に着てみるとそのハードさが思ったほど前に出ず絶妙に見えます。エイジング処理が絶妙で、その日に履いていた501XXと相性がよく、50’Sのテディボーイ風の組み合わせながら、非常に大人っぽく上品で洗練されたレザーアイテムの着こなしに見えます。
着心地も、通常のレザーアイテムと異なり、軽く、柔らかく、ムートン独特の羊毛の柔らかさが気持ちよく暖かいです。
引野氏からも、軽くて暖かいので、冬場はデニムに合わせて着る機会も多いですし、お持ちのサーマルのTシャツや、ブルネロクチネリのカシミアニットとの組み合わせで、薄着で着膨れせずに楽しめるアイテムですとのお話を受けます。あとエフェクト処理で古着のような質感があるのでお持ちのヴィンテージジーンズは何を組み合わせても自然にこなれて見えます。との説明を受けます。
私が、驚いたのはハンガーにかかっているとゆったりとした見栄えで、着ると着心地は良いが鏡でみると身丈も身幅も絶妙で身体のラインが締まって見える事です。これはブルネロクチネリがこだわるテーラーリングの技術がなせる技で、パターンだけでなく縫製や仕立てにも相当なこだわりがあるからこそ成り立っています。試着したサイズはSだったのですが、実際に着るならXSの方が私に合っているのでXSを進めてくれます。
このようなやり取りを経て引野氏のセレクトの良さに感銘し、私は、シアリングバイカージャケットに決めます。
実は引野氏との会話の中で、私のシアリングバイカージャケットやブルネロクチネリについての話は程々で、1時間近く引野氏と真剣に話をしたのは、私が古着を好きで、アメリカだけでなくヨーロッパの古着の話になり引野氏が興味を持つM38の話になります。流石おしゃれの達人で古着についても造詣が深く、少し長くなった会話も楽しめました。
Mr.ブルネロクチネリが選んだ意味
引野氏のような、ブルネロクチネリに精通したおしゃれの達人が何故ブルネロクチネリらしいカシミアのコートやジャケットではなくシアリングのライダースを選んだのかを考えると前文の通り私の古着との組み合わせを重要視しての選択であった事がわかります。
オーダー会の日に履いていた501XX(54年製造)を見た引野氏は、即座に50年代の501XXとわかります。(イエローステッチなどの特徴的なディテールで直ぐに判断出来たと考えられます。)、それとなく501XXの話になり、他に愛用しているLee101Zブラックタグ(50年代のもの)などの話になります。何気なく話をしていた内容をしっかり捉え、私の好みを踏まえ家内のポンチョを選んでいる間に、私の古着に最も相性が良さそうなものは何かを考えて選んだのがシアリングラーダースジャケットだったのではないかと考えられます。
購入時点ではシアリングライダースジャケットを進めてくれた理由についてあまり深く考えませんでしたが、今回501XXと合わせたスタイルの写真を見て、引野氏はこのスタイルを考えていたんだろうなと気がつきました。
私のイメージと合わせてライダースを選択した意味は以下のようなイメージだったと考えられます。
着用例 501XX



シアリングライダースジャケットの着こなし
私が古着が好きでここ数年はブルージーンズ以外ほとんど履いていなかったのですが、今年は他のボトムアイテムを積極的に履くようにしています。その中でスタンダードなストレートジーンズよりスリムなボトムのシルエットがあります。前回記事のDiorピーコートで紹介した、Diorを代表する黒のスリムフィットデニムとVisvimの5ポケットのストレートパンツを合わせてみます。
スリムフィットのブラックデニム
ライダースに黒のスリムデニムのスタイルもロック的で、イメージはモーターヘッドのフロントマンであるレミーキルミスターのようなイメージがあります。腰に極太のガンベルトを巻くとまさにそのスタイルになります。レミーのライダースはスタッズが打ってあり背中にバンドのロゴがペイントされたりしており厳密には異なりますが、ライダースに黒スリムはレミーのイメージです。
黒のスリムを合わせると、バイカージャケットの雰囲気が前に出てきて、ヨーロッパのバイカーのイメージを感じます。映画などだと、ヒッピー崩れの歳をとったバイク屋の親父がしていそうな格好でもあります。レミーやヒッピー崩れのバイク屋の親父のイメージだと直毛の腰まで伸びたロン毛ですが、流石に私がこの歳でロン毛は無理でありそもそも似合いませんのでそのまま着ています。
着用例 スリムフィットのブラックデニム


レザーアイテムを大人っぽく洗練されたイメージで着たい時は、ストールやマフラーなどを首に巻くと効果的です。ボトムがブラックデニムになるだけで雰囲気が一気に変わります。

着用例 Visvim 5ポケットストレート
これまで、しばらくしていなかった、ベージュ系のパンツと冬物アウターを合わせるきっかけとなったVisvimの5ポケットストレートパンツと合わせて見ます。私の中でベージュ系や白パンから想像するイメージは三島由紀夫氏のイメージがあります。私自身三島由紀夫氏についてあまり詳しくはないのですが、子供時代に見た三島由紀夫の映像で、白パンに焦茶のポロシャツを着ているイメージがあります。
余談ですが、2000年代初頭、ドルチェアンドガッバーナの春夏シーズンの服をバーニーズで見た時、まさに三島由紀夫のイメージが湧きました。これは、タイトでローライズなベージュのパンツに、身体にフィットする焦茶のポロシャツの組み合わせが、肉体的であり映像として残っている1960年代終わりの三島由紀夫をイメージするものでした。
厳密には三島由紀夫のファッションについて私自身の知識が追いついていないので、そのようなイメージをする方は少ないかもしれません。肝心の三島由紀夫の本は若い時、潮騒を読んだ覚えがあるのですが内容をほとんど覚えておらず思い返すと記憶の中で太宰治の斜陽が潮騒と被ってしまう体たらくです。機会があれば再度読み返したいと考えています。
三島由紀夫のイメージはどちらかと言えば全共闘との討論のイメージが強く非常に本質的で理念を信じ精神的にタフな人であったという三島由紀夫像が私の中で勝手に出来上がっています。
私が、白やベージュのパンツを履いても三島由紀夫のイメージは全くありませんが、過去に目にした戦後の日本人でファッションの中に肉体を前面に出したイメージが強いのは三島由紀夫でありその三島由紀夫の写真で残ったものが白パンとポロシャツといういで立ちであったのがベージュ系や白系のパンツを見ると三島由紀夫を連想する理由です。
着用例 Visvim 5ポケットストレート

白系のボトムに焦茶色という組み合わせが最近好きで良く身につけています。Visvimの細身で綺麗なシルエットのストレートパンツと合わせると洗練された大人の雰囲気が出ます。

前のジップを開けてストールをラフに巻いても洗練された印象。

フロントジップを閉めてVゾーンにストールを見せると、暖かさだけでなく洗練されたスタイルになります。



ディテール
- ムートン
- 斜めに配したダブルカーソルジップで開閉
- ラぺルカラー
- 上部にジップポケット
- 下部にジップ式ポケット
- フラップ付きチケットポケット
- 袖口のジップで開閉
- シアーリング製ライニング
- イタリア製
組み合わせ
- バイカージャケット : Brunello Cucinelli シアリング バイカージャケット
- ニット(グレー) : Brunello Cucinelli スエット風カシミヤニット
- カシミアストール : Brunello Cucinelli
- ウエスタンシャツ : Brunello Cucinelli
- Denim : Levi’501XX 1954製
- Denim : Dior スリムフィットデニム
- 5ポケットコットンパンツ : Visvim
- キャスケット : リアルマッコイズ
- ニット帽子(グレー) : LEUCHTFEUE
- 時計 : Rolex Day Date (1803 1969)
- サングラス : Tom Ford
- ベルト : Hender Scheme
- 靴 マウンテンブーツ : Brunello Cucinelli
おわりに
家内の冬物を選ぶために訪れたオーダー会で、勧められて購入したシアリングバイカージャケットです。元々、レザーアイテムの使用頻度はそれほど高くないので、私一人でものを選んでいたら選んでいなかったであろうアイテムです。
服の面白さに、ハンガーにかかった状態では興味を惹かないものが、実際に身に着けてみると予想外に良かったというケースは多々あります。今回のシアリングバイカージャケットは正にそのパターンです。
コンセプトが非常に面白いレザーアイテムで、クリースの効いたトラウザーズにブレザー代わりに羽織るような着方を想定した作りで、レザーアイテムながら、テーラードジャケット的な作り込みがなされています。本来は私のようにブルネロクチネリ以外のボトムと合わせるより、ブルネロクチネリが展開するボトムと合わせて着る方がブルネロクチネリの世界観を堪能出来ます。
前回のDiorのピーコートで触れましたが、ブルネロクチネリのアイテムは、他のブランドや、全くコンセプトの異なるアイテム(古着やより現代的なアイテムなど)との組み合わせを容認する寛容さのようなものがあり、コンセプトの異なるアイテムに上質さや品格を足してくれます。(あくまでベーシックなアイテムが前提ですが)
シアリングバイカージャケットは非常に素晴らしいアイテムながら、購入後数回しか袖を通す機会がなかったのですが、今回撮影を行い、従来の着方であるヴィンテージデニムとの組み合わせ以外の様々な組み合わせの面白さを試す事ができました。ヴィンテージデニムよりスリムなシルエットを持つボトムとの相性が良かったので今後このスタイルも積極的にしていこうと考えています。
このように、購入から数年を経て自身の中にある価値基準が上がる服って世の中にそうはありません。このような価値観を提供しているのがブルネロクチネリの真骨頂であります。
オーダー会も非常に素晴らしい体験で、ブルネロクチネリを熟知したMr.ブルネロクチネリこと引野氏が我々夫婦に最高のアイテムを選んでくれた事に感謝しております。
氏の着る人を見てからお勧めするアイテムのセレクトに関する感性は、着る人に対する鋭い観察力とヒアリング力による外側と内側を熟考した非常に高いプロフェッショナル意識がなせる技でもあります。他のスタッフの方も引野氏同様に高い感性と高いプロフェッショナル意識を持っており、そのことから私も家内もブルネロクチネリで購入したアイテムには間違いがないという絶対的な信頼を持っています。
これは私だけでなく他のブルネロクチネリを愛するお客様も同様の感覚をお持ちなのではないかと考えています。
今回紹介したシアリングバイカージャケットは少しクセの強いアイテムで、人によっては合わない方もいるかもしれませんが、ブルネロクチネリが展開するシアリングにはフライトジャケットをモチーフにしたものなども用意され、カラーも黒だけでなくナチュラルなカラーのものも用意されています。
今回のバイカージャケットより癖がなく他のアイテムとの組み合わせのしやすいものも展開されていますので一度袖を通してみてはいかがでしょうか。シアリングは柔らかい質感と軽さ、暖かさを備えた優れたアウターでありブルネロクチネリが持つ組み合わせに対する寛容さにより様々なスタイルに上質さや品格を自然に与えてくれます。
Shop
私のブルネロクチネリの商品は、Brunello Cucinelli銀座店で購入しています。
フィールドジャケットの記事でも述べていますが、商品やお店だけでなくそこに関わる人も含めて最高のお店ですので、一度足を運ばれてみてはいかがでしょうか。
お店については、フィールドジャケットの記事で詳しく説明していますのでそちらを参照ください。