はじめに
タイムスリップ
今回紹介するタイユアタイのKitonのスーツは、2000年代に私がリアルに身につけていたもので、20年を経て、また着用すると、懐かしさとある種タイムスリップしたような感覚があります。
John Lobbのダービーシューズを紹介する記事の写真を撮るために、長年クローゼットで寝ていたスーツを持ち出しました。折角なので当時していたスタイルの写真を撮りたいと考え、当時合わせていたJohn Lobbのダービーや、時計も当時常時着用していたオメガのシーマスターを着用し写真と簡単な記事にまとめています。
良いものは時を経ても、変わらない価値を持っていると常々考えていますが、身につける環境が変わり、しばらく身につけなかったものを、時を経て身につけても、作り手の理念を含めしっかりしたものを選ぶことで、ものが持つ素晴らしさは変わらない事を今回の撮影で再確認しました。
Tie Your Tie Kiton
サイズ感と時代背景
今回、久々に着てみて感じたスーツのサイズ感は、現代の感覚で言うと少し大きくルーズに感じます。その理由が、当時購入した際に、スーツのサイズは私の肩と胸で合わせており、通常46のところ48のサイズを選んでおり、身幅やトラウザーズが少しゆったりしています。
購入当時、スーツのシルエットの主流は、今ほどタイトなスタイルではなく、Kitonなどのクラシックなスーツは保守的でもあるので、48サイズで少し大きくゆとりがあるサイズ感でも、タイユアタイの方も、私も違和感を感じずに選んでいます。
20年前の、現代とは異なるサイズ感で合わせたスタイルを現代に持ち出してみたら、非常にクラシックなスーツスタイルに見えるのも面白いと感じています。
体型は当時とあまり変わっていないのですが、現代のスーツのフィッティング感覚で言うと46がベストになります。ただし立体的に仕立てたものでないと、肩や胸が少し窮屈に感じてしまいます。
現代のサイズ感
参考までに、私の体型からスーツのサイズを厳密に合わせていくと、スーツの肩や胸周りは48ですが身幅は44ないし46、トラウザーズも44ないし46になります。(作りの良いスーツは46で肩や胸がジャストになります。)
身体に合ったジャストサイズのスーツは、非常に見栄えが良いのですが、作りが良くないと、着心地に影響することと、直立不動で綺麗でも、動くと各所に皺が出てしまい、逆に見栄えが悪くなってしまいます。今回紹介するKitonなど、イタリアの優れたメーカーやサルトのスーツの特徴に、非常に立体的に構築されています。
正面からだけではなく、斜め横からや、後ろ姿のシルエットが、それまで着ていたスーツとは全く異なるシルエットで、肩から背中、お尻と綺麗なカーブが出ており、スーツを着ることで、男性的な逞しさのようなシルエットが自然に出ていた事が購入の決め手になっています。
Kitonは生地商でもあるので、非常に上質な生地をストックしており、私のスーツも絶妙な燻んだネイビーカラーに、トーンを落としたグレンチェック柄がうっすらと入り、厚手のウール生地ながら、柔らかい着心地となっています。
当時のタイユアタイで提案された、スリーピースではなく、フロントボタンがついたカシミアカーディガンをベスト代わりに着るスタイルを出来るように身幅が少し広くとってあります。このカシミアカーディガンも同時に購入しており、冬場の寒い日はインナーに着用します。
抜け具合の塩梅の妙
当時30代であった私には、分不相応な感が多々ありましたが、購入後はそれまで着ていたスーツとの違いがわかり、またタイユアタイ独自のセンスが、タイユアタイの別注ではないオリジナルのKitonやブリオーニなどの高級スーツに比べて、絶妙に力が抜けた感があり、見た目やイメージに高級志向を求めない私の感性と合っていたことから、着用の機会も多く愛着を持って着用しています。
タイユアタイでの購入は、仕事でお世話になった先輩からの紹介がきっかけになっています。本当に良いものや、愛好家を産むようなものは、話の種になり、コミュニケーションツールとしても機能することを、タイユアタイのスーツを買ったことで学んでいます。ものだけではない価値を得る買い物という貴重な経験でもありました。
John Lobb Darby.
当時の私は、革靴は、外羽でダブルソールのダービーを好んでおり、所有していたJohn Lobbの靴は全て、ダブルソールの外羽のダービーでした。ドレスコード的には内羽のオックスフォードを合わせるのがセオリーかもしれませんが、あまり気にせずスーツにダービーを合わせています。
甲が低く綺麗なシルエット
John Lobbの靴全般に言えますが、履いた時に甲が低くすっきり見える特徴があります。お店や、写真でものだけを見た印象と履いた印象が異なります。同じ英国靴のエドワードグリーンの靴の方がこのような特徴をわかりやすく出しています。私は英国靴はJohn Lobbを選択しましたが、エドワードグリーンの靴も非常に優れています。機会があればエドワードグリーンの靴も履いてみたいと考えています。

甲の履き皺はありますが、25年以上履いた靴には見えない堅牢さがJohn Lobbの靴の真骨頂とも言えます。ダブルソールなので一般的にはカジュアルなイメージですが、英国の機能美から生まれたものなので堅牢で重心が低いイメージを強く感じます。
馴染んだ外羽
John Lobbのカーフは非常に堅牢で、最初は固いのですが、履き込むと足に馴染み、体温が革全体に伝わることで適度な柔らかさになり、非常に履き心地が良くなります。革底も私の身体に馴染み適度に沈んでいるので、外羽が開きすぎず綺麗に締まります。

写真を撮り、改めて見てみると、全体のバランスが優れていることが良くわかります。私個人の考えですが、靴単体で見ると甲がすっきりして見えませんが、履くと甲が低くすっきり見えるのは、デザイン(ラスト)と作りの良さから生まれるものと考えています。
Omega Sea Master Ref.2532.80
アップルウォッチの登場以降、私もその便利さから、アップルウォッチを常時使用するようになります。アップルウォッチ登場以前に私は、オメガのシーマスターを常用時計として愛用していました。
購入から30年近く経っていますが、防水性能や機械精度などの性能面を含め、全く劣化しないタフさがあります。家内とともに初めて購入した機械式の時計であり、非常に愛着があります。仮に人生で一本の時計のみを手元に残すといったら、迷いなくこのシーマスターを選びます。
優れた日常性
流石に30年前の時計ですので、何度かオーバーホールをしていますが、銀座にあるニコラスGハイエックセンター内のオメガでしっかりオーバーホールをしています。そのことで防水機能や精度も当時のまま(実際には多少の劣化はあると思います)をキープしています。あと特筆すべきは、ブレスレットが全くヨレていないので装着感も気持ち良く、細かく区切られたコマにより、調整幅の広さがあり、私の手首にジャストフィットしています。
90年代当時、シーマスターを選んだのは、防水性能を含めた高性能なダイバーウォッチの日常性、41mm径と当時は大きく感じましたがベゼルに色が入っていない事、マットなブルーダイヤル(ネイビー)が理由になります。
ベゼルに色が入らない事とフェースがマットなネイビーであった事から、カジュアルな格好は勿論、スーツの時に着用しても違和感がなかった事からシーマスターを選んでいます。
堅牢なダイバーウォッチ
私事ながら、90年代の終わりから、2000年代初期(2001同時多発テロ以前)、ハワイにお世話になった方の奥様が居住していたので、たまに遊びに行ったのですが、アクティブだったその奥様に連れられて、実際にダイビングでも使用しています。その奥様はダイビングの上級者で有資格者であったので、海に入ると奥様に手を引かれ、結構水深の深いところまで潜っていますが、性能的に全く問題もなく、海中での視認性も高い本格的なダイバーウォッチです。
タフさという堅牢性や機能性について言えば、2010年くらいから軽いランニングとウォーキングを続けていますが、当時12キロの行程にもシーマスターを装着したまま走っています。
真夏のランニング時は結構な汗をかきます。汗の心配はありますが、防水性能はダイバーウォッチなので全く問題なく帰ったら水道で水洗いもしています。ペースを上げ腕の振りが大きくなった際に生じる振動面に関しても全く問題ありません。
この事は、ニコラスGハイエックセンターにオーバーホールを出した際に、ランニングの振動面に関してはオメガが想定する使用方法から外れた使用方法なので、精度への影響や内部部品の損傷について聞いてみたのですが、全く問題なかった事から感じた事になります。今や、アップルウォッチやガーミンにその座を譲ってしまいましたが、スマートウォッチ登場以前に、様々なシーンで大活躍した最高のデイリーウォッチになります。
ランニングやウォーキングで、基準タイムのガイドとしてベゼルをずらして使う(潜水時間と同じ感覚)といった使い方もしており、ちょっとしたツール感から機能的である事も愛着につながっています。

当時は、大きく感じた41mmのフェースですが、ドレスウォッチのフェースが大きくなっている昨今それほど違和感はありません。ベゼルに色がない事と、ブルーダイヤルにより過度にスポーティーな要素が出ずスーツに合わせても自然にまとまります。
[ OMEGA Seamaster Ref. 2532.80の記事 ]
今回合わせたスタイルは
- Kitonのスーツ : タイユアタイ別注
- サックスブルーのオックスフォードシャツ : タイユアタイオリジナル
- ブラウンの変則ドットタイ : タイユアタイオリジナル
- 靴 John Lobb Darby
- 時計 オメガシーマスター
- ブラウンハット エルメス バルタザール
といった形で合わせています。ハット以外は2000年代中頃にリアルにしていた組み合わせです。
ノスタルジーのような記事になっていますが、20年の時間軸で考えた事で、ものが持つ価値の本質(金額ではない感性に響くもの)を再確認しています。
Combination
非常にオーソドックスなスーツの着方で、ダークネイビーのスーツに、サックスブルーのシャツと、ブラウンのネクタイを合わせ、黒のフルブローグのダービーを履いているスタイルです。
タイユアタイのスタイル
当時タイユアタイの方から言われたのは、タイユアタイでは、ポケットチーフは刺さないのが基本と言われ、オーナーのフランコミヌッチ氏もポケットチーフはしていません。その影響からか、私もポケットチーフを刺すことは稀で、代わりに、万年筆や、冬場には胸ポケットに外したレザーグローブを刺したりします。このような、服の機能を自然に使うような所作の影響も、タイユアタイから受けています。
フランコミヌッチ氏の哲学
フランコミヌッチ氏の装いの本質が、少しだけ(この塩梅が重要)ドレッシーなものを崩して身につけるというのがあります。私個人の考えですが、その真意の中に、周りの人を引き立てるサービス精神のようなものを感じています。
わかりやすいのは、女性をエスコートするなら、男性は引き立て役に徹するといった事で、自身の装いを同席する方以上に華美にしない美学というとわかりやすいかもしれません。そのことは当然、私も自然に意識しています。
この、周りを引き立てる為に自身の装いを華美にしないという美学を、世界最高のセンスで行いながら、自身の装いも楽しめる上質なアイテムを取り揃えたのがタイユアタイというお店の本質と感じています。
この事は男性の装いの本質であり、タイユアタイでスーツを購入した事で、より鮮明に意識し、受けた影響からその後の私の装いにおいて今でも実践しています。(華美にしないが自身の装いを楽しむ感性をもらったとも言えます。)
フランコミヌッチ氏が永眠してしまい、当時タイユアタイで展開していたミヌッチ氏の哲学が随所に散りばめられた素晴らしいアイテムを、私の環境から、結局スーツ一着しか購入することができなかったことが、今更ながら非常に残念に感じています。今回記事をまとめてみたことで、タイユアタイが、何故凄かったかの漠然としたイメージを言葉にすることで、私自身がその価値をやっと理解出来たのでは?と感じています。
