おわりに
イタリアのサルトリア文化の考察
マリーニの靴を探した過程で見つけたお店で、オーナーと会話し、感銘を受け購入したFormosaのカシミアジャケットになります。イタリアのサルトリアの文化が詰まった、装いだけでなく、思想や哲学も付随する、物だけでなく知見や哲学を得る満足度の高い買い物になりました。
私の購入したFormosaのカシミアジャケットは古着ですが、前オーナーの思いと、その思いに最大限応える仕立てをしたSartoria Formosaの良好なリレーションが詰まっています。
時間
イタリアのサルトリア文化の本質を解釈すると、時間の流れの大事さを感じることが出来ます。私はたまたま、自分の身体に合う他人のビスポークで作られたジャケットの古着を購入したのですが、もう少し違った観点で考えると本質が見えてきます。
ビスポークでジャケットを仕立てると、価格も高価になり、仕上がりまで時間がかかります。相応の手間が仕立てにかけられ世界に一つの自身に合うジャケットが出来上がります。
これは所有物として考えると究極の買い物でもあり本当に良いものを手にいれる事となります。このような究極とも言える自身に合うものを愛用することで、人生が豊になることは想像出来ます。
この究極の所有物であり愛用品を利用しなくなった時に、本質が見えてきます。今回、私は古着という形で手に入れ、前オーナー同様、愛着を持ち愛用していきます。
私のケースは他人間での継承ですが、これが、血縁関係となると、親から子へ、子から孫へとなります。(一昔前のパテックフィリップの広告ですね)
ナポリ(イタリア)のサルトリアの仕立て文化の本質は、作ることは当然ながら、作った後の時間のサイクルの長さと継承にあるのではないかと考えています。
継承
手間暇とコストをかけて仕立てたジャケットやスーツは、仕立てた本人は当然長く愛用します。作った工房があるので、必要とあらば直しを行えます。もし、本人が着る機会がなくなり譲ることを考えた場合、譲る相手に合わせ直しを行い、引き継いでいくことが出来ます。
ヨーロッパの文化に、大事な人から譲り受けたものを譲り受けた人が大事にする文化があります。父や祖父が日頃着ていた、仕立ての良いジャケットなどであれば、子息は喜んで譲り受けると考えられます。
譲り受けた人が、新たに仕立てをしていくことも考えられます。このような顧客が顧客を引き継ぐサイクルも自然に成り立っていると考えられます。また、顧客が工房も大事にするので、本当に紹介したい新たな顧客の紹介もすることが考えられます。
工房の仕事に敬意を持つ顧客が、時間軸の長い付き合いを続け、懇意にしている新たな顧客を連れて来てくれるというサイクルが自然に成り立っているのが、イタリアのサルトリアの仕立て文化の本質ではないかと考えています。
あえてお店の看板を宣伝せず、顧客との長い付き合いと、紹介で成り立っているのは、クローズドなサロン的でもあり、顧客の中に裕福な方がいれば、工房を贔屓にし、より多くの注文を入れ、お店を支えてくれます。これはヨーロッパ的なパトロン文化とも言えます。
似たような事例として、日本では、(最近見かけなくなりましたが)母の着物を打ち直して娘に引き継ぐ習慣があります。感覚としては、この着物の打ち直しに近いかもしれません。着物は高価なので一般的に一生で数回しか作りませんが、サルトリアのスーツもそういうものと考えると納得がいきます。
本質は良いものを長く使い、必要とあらば、継承していくという前提のもとで仕立てられ、その文化が継承されているのが、イタリアのサルトリアの本質なのではないかと考えています。
表裏
作り手であるサルトリアの文化側面には、仕立てを頼む顧客の文化側面が表裏として存在しており、両者の関係がサルトリアの文化を育て日々進化しています。
そのような土壌で生まれたジャケットやスーツである事を理解すると、身に付け装いとして楽しむことに、文化的な知見が入り、自身の装いに深みが出てきます。
自身が着る事を楽しむ要素や社会性、装いの基本など、様々な選択理由がありますが、イタリアのサルトリアの仕立てたジャケットに内包される本質的な文化側面(ヨーロッパにある質素倹約でものを大事にする文化やサロン的なコミュニティ、愛好家が作り手を育てていく土壌など)を理解出来たことも、Formosaのカシミアジャケットを購入した事で、得たものになります。
私の考えの本質でもある。良いものを買って長く使うということが、日々の生活を豊かにしてくれる理由(身につける物に対する本質的な理解)を、再確認するきっかけとなったArtigiano Ciaoのオーナーの知見に感謝しています。
機会があれば、この文化側面を踏まえた上で、Formosaのビスポークに挑戦してみたいと考えています。
※ ものや文化的側面は異なりますが私が愛用したベルルッティやC Diemでこの愛用品の継承をしています。
Shop
Artigiano ciao
私のFormosaのカシミアジャケットはArtigiano Ciaoさんで購入しています。元は、マリーニの靴を探して見つけたお店になります。クラシコイタリア(現地の意味合いはStile Classico)と言われる、イタリアのサルトリアで仕立てたスーツやジャケット、合わせる靴、シャツやネクタイ、コートなどの程度の良い古着を扱っています。
扱うアイテムは、店主の審美眼が徹底され、非常に高いクォリティと、古着でありながら状態の良いものしか扱っていません。私は元々、古着好きで古着に対して抵抗感がないので、こちらのお店で様々なものを購入しています。
古着なので、ビスポークで作られたジャケットは身体に合うものを探すのが、難しいのですが、好みのシルエットや生地を含め、根気良く探してみると少数ですが見つけることができます。
このお店の良さに、サルトリアの哲学を理解し基本的なフォルムを崩さない形でのサイズ直しをしてくれます。イタリアのクラシックなスーツやジャケットを長年にわたり研究し、作り手の哲学を踏まえていますので、サイズ直しも個体が持つ良さをしっかり残した形で新しいオーナーに合わせてくれます。
サイズ直しに関しては、身体に合うサイズから離れていると、元のフォルムが壊れますので、オーナーに相談すると適切な判断をしてくれます。
文化の継承
Artigiano Ciaoのオーナーはイタリアのクラシックなスーツやジャケットを長年にわたり愛し、研究し、作り手の哲学を踏まえた上で敬意を持って扱っています。
古着を扱っていますが、文化の継承といった側面を大事にしています。
イタリアのクラシックなジャケットやスーツの良さと本質、歴史や文化としての価値、ビスポークで仕立てたアイテムの持つ普遍性や永続性、時間軸に対する考え方などを熟知しています。
お話しを伺うと、私の考えと共通する事も多く、長年イタリアのクラシックな装いに接してきた知見の高さと、服飾を文化レベルで理解し考えていることに感銘を受けています。
元々、個人が経営し、店主のこだわりや、扱う商品に対しての愛情や敬意を持つお店が大好きな私は、Artigiano Ciaoと店主のファンになります。そのような経緯で選んだ個体が今回のFormosaのジャケットになります。
名品
Artigiano Ciaoさんは名古屋の本店と東京の支店を持っています。東京の支店は8坪程度のお店ながら、クラシコイタリアが好きな方から見たら宝の山で、面積から展示が限られていますが、まさに少数精鋭で、なかなか目にすることが出来ない名品と言えるサルトリアのジャケットやスーツが展示され、靴も同様名品を揃えています。
クラシコイタリアという言葉の文化的側面の本質に一番近い装いをわかりやすい形で提案し、気軽にまたディープに楽しむきっかけを作ってくれるお店になります。
このことで、アンダーステートメントというさりげなさの本質を実践できます。アンダーステートメントの実践に必要な知見や審美眼を楽しみながら養うことが出来ます。
記事が長く、少し難しい話が混じっていますが、長年スーツスタイルを楽しんだ年配の方でも、スーツを常用している現役世代でも、これからスーツスタイルに挑戦したいと考える若い方でも、歴史に裏付けされた本物に触れる機会を与えてくれる素晴らしいお店になります。
